ブックデザインについて
「イスラム」という言葉には、メディアが報じた内戦やテロといった暴力的なイメージを思い浮かべる人が多いのではないでしょうか。しかし、実際にムスリムの国々を旅した著者が感じたのは、彼らのホスピタリティの高さでした。撮影された写真に写る彼らはみんな無邪気な笑顔を向けています。実際にどこに行っても笑顔で迎えてくれたそうです。
著者が旅先で感じたイスラム教徒の人々の温かさ、出会った人々の優しさを伝えたい。そんな想いでデザインに考えを巡らせました。
製本には、美術書などで見られるコデックス装を採用しました。 コデックス装は、のど元まで180°きれいに開く製本方式で、見開きで絵や写真を大きく見せることができます。
フィルムのコンパクトカメラで撮影された彼女の写真には、その場を切り取ったリアルさがあります。うまく撮ろうとは考えず、楽しいその瞬間を写真に収めるためにシャッターを押したような。私はそんな彼女の写真が大好きで、できるだけ大きく扱いたいと考えました。そして、当時はコロナ禍で海外旅行を自粛しなければならない時期でしたので、ページを開いたまま部屋に飾ってもらい、少しでも異国の気分を味わっていただければと思い、この製本方式を提案しました。
特設サイトについて
本の出版と同時に、特設サイトも立ち上げました。このサイトには書籍紹介だけでなく、本に載せきれなかったエッセイや写真を掲載し、出版後も著者が自由に更新できるようWordPressで構築しました。
このサイトを立ち上げた目的は2つあります。
一つは、本が売れる期間を延ばすためです。一般的に本は出版されてから6ヶ月が勝負だと言われています。それは、書店での本の陳列方法にも関わっています。出版直後は目立つ場所に平積みされるためよく売れます。それが次第に棚に入れられ、背表紙しか見えなくなります。お客さんの目に触れる機会が減っていくにつれて売れなくなるのです。その後、動かなくなった本は、返品という流れをたどります。
日に200冊の本が出版される中、本屋さんの限られたスペースを奪い合うのですから仕方がないことです。
しかし、一冊の本が生まれるまでには、著者はもちろんのこと、編集者やデザイナーといった関係者の多大な時間と情熱が注がれます。それが半年で終わってしまうのは勿体無いと思いました。
そこで、書店から本が無くなっても、著者と読者の接点となりうるWebサイトを作ることを提案しました。
書籍と違い、Webサイトは更新を続ける限り、日を追うごとにアクセス数が増えていきます。Web制作を生業とする私だからできることとして、特設サイトの活用に実験的に取り組みました。
もう一つは、著者である智秋さんが末期癌を患っていたことです。
末期癌が発覚した直後、彼女は現実を受け止めることができず、深く沈んだ日々を送っていました。その後、本の出版が決まり作業に忙しくなるにつれて、彼女は本来の明るさを取り戻し、毎日が充実しているように見えました。実際に検査結果も治療開始時よりかなり改善していました。
それは喜ばしいことですが、半年後、本が完成したらどうなってしまうのか。日々の作業が無くなくなれば、未来のことを考える時間を生まれることになります。それは避けたい。何かしらの作業を作ることができないかと考えを巡らせ、特設サイトを作ってエッセイを100記事書き続けることを提案しました。
結果的に、入院中にもやることができたと彼女は喜んでくれました。100記事には届きませんでしたが、亡くなるまでの半年間で33のエッセイを残してくれたことは、私を含むファンにとっても嬉しいことでした。
- クライアント
- みずき書林
- 事業内容
- 書籍の出版
- 当社担当範囲
- コンサルティング / コンテンツ企画・開発 / ブックデザイン / Webデザイン
- サイト仕様
- WordPress
- URL
- https://tabihitosaji.com/
- クレジット
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- Produce : 見元俊一郎
- Direction : 見元俊一郎
- Art Direction & Design : 見元俊一郎
- Book Design : 見元俊一郎
- Text & Photograph : 松本智秋
- Front-end Engineering : 仲田礼子